『プリティ・プリンセス』(2001) 映画 デビュー作でスターになれる俳優はなかなかいないが、 アン・ハサウェイ がその一人となったのが『プリティ・プリンセス』だ。 サンフランシスコ に住む冴えない高校生ミアが、実は ヨーロッパ の小国ジェノヴィァ(架空の国)のプリンセスだったことを知り、同国の女王で祖母(ジュリー・アンドリュース)の力を借りつつ王位継承者として生まれ変わるというお話。典型的なシンデレラストーリーではあるが、アンのチャーミングな変身ぶりや、自分の意志で決断を下すラストが好感を呼び、大ヒットとなった。「エンターテイメント・トゥナイト」によると、アンは当時この役を演じるには年齢が上すぎると言われたものの、周囲に懇願してオーディションを受けたそうだ。そのオーディションもスケジュールの都合で1発勝負となったが、見事役を獲得するという、彼女にとってもリアルなシンデレラストーリーとなったのだ。 『ブロークバック・マウンテン』(2005) アメリカの西部を舞台に不倫関係にある二人のカウボーイを描いた『ブロークバック・マウンテン』の出演は、アンにとって品行方正なお嬢さんというイメージを払拭する大きなチャレンジでもあった。 アカデミー賞 の作品賞間違いなしと騒がれながらも受賞を逃し、アカデミー賞がいかに保守的で時代遅れかが議論されることになった作品でもある。今作でアンは ジェイク・ギレンホール 演じるジャックの妻として、決して大きい役ではないながらも存在感を発揮。夫が男性と不倫関係にあることに気づいていたかのような、電話口での絶妙な演技は必見。 『プラダを着た悪魔』(2006) 24歳のときに出演し、当たり役となったのが『プラダを着た悪魔』で演じたアンドレア(通称アンディ)・サックス。大学を出たての報道記者志望のアンディだったが、就職先はよりによってファッション誌の編集部。それも名物編集長の第2アシスタント。今作で見事なのは、 メリル・ストリープ 演じる編集長のミランダにいびられてビクビクするも奮闘する彼女の演技と、まったく興味のないハイファッションの世界でモードなスタイリングを華麗に着こなすようになる姿だろう。努力をした気になり現状への不満ばかりを並べ、多くの女性たちが憧れる仕事の本質を理解しようとしなかった自分に気がつく...
...
。そこからの人間的成長とスタイルの変化が注目ポイントだ。今や大スターとなった エミリー・ブラント との軽やかな掛け合いも観ていて飽きない。 『レイチェルの結婚』(2008) それまではキュートな役柄が多く、コメディが得意と思われていたアンが、トレードマークだったロングヘアをボブにして、シリアスでドラマチックな役もできることを証明したのが『レイチェルの結婚』。薬物依存の治療のためリハビリ施設に入っていたキム(アン・ハサウェイ)は、姉レイチェル(ローズマリー・デヴィット)の結婚式のために施設から一時退院するが、幸せにあふれる姉の姿を見るうちにやりきれなくなり、トラブルを巻き起こす。一方で姉も、そんな妹に苛立ちを覚えて衝突をする。家族や友人たちを巻きこんで繰り広げられる葛藤がリアルで観ている者たちに重く響くのは、ホームビデオのようなハンディカメラで撮られた映像と、アンの演技の賜物といえる。今作で彼女は初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。 『アリス・イン・ワンダーランド』(2010) 『プリティ・プリンセス』でプリンセスを演じたが、約10年後の『アリス・イン・ワンダーランド』では女王に君臨。 ティム・バートン 監督と初仕事となった本作では、主人公のアリス( ミア・ワシコウスカ )を見守り、助け、そして国を愛する善良な白の女王を演じている。恐怖と暴力で国を牛耳る姉の赤の女王( ヘレナ・ボナム=カーター )に対し、白の女王は心もまっすぐで清らかで、ファンタジーの世界でもキラリと光る。しかし、ハサウェイ自身は、グリーンスクリーンの前で演技を披露するのが初めてだったため、撮影前はかなり緊張していたと「Moviweb」の取材で語っている。もちろんそんな心配は無用。気高く、堂々とした自信にあふれた女王を演技している。 『ダークナイト ライジング』(2012) クリストファー・ノーラン監督によるバットマン3部作の最終章『ダークナイト ライジング』で演じたのは、DCユニバースには欠かせない、バットマンの運命のお相手であるキャットウーマンことセリーナ・カイル。アンは正義と悪、敵との味方の間を自在に行き来するキャットウーマンを、セクシーかつパワフルに演じている。ところがアンが「BBC Radio 1」で語ったところによると、彼女はハーレイ・クイン役を受けていると思ってオーディションに臨んでいたそうで、会場でノーラン監督に「ご存知だとは思うが、これはキャットウーマンのオーディションだよ」と言われて、慌ててギアを入れ替えたという。それだけノーラン監督の作品は極秘に進められているということなのだろうが、一瞬でハーレイ・クインからキャットウーマンに入れ替われるのだから、さすがのひと言に尽きる。また今作は世界興行収入が10憶ドルを超え、彼女のキャリアの中で興行的に最も成功した作品となっている。 『レ・ミゼラブル』(2012) 1862年にヴィクトル・ユーゴーが発表した『レ・ミゼラブル』は、1985年にロンドンでミュージカル化。それをトム・フーパー監督が映像化したのが本作だ。アンが演じるのは、恋人に捨てられ工場で働きながら一人娘を育てるも、生活苦から娼婦へと転身するフォンテーヌ。US版『VOGUE』によると、役作りのために25ポンド(約11.5キロ)減量。さらにヘアスタイルもほぼ坊主という、まさに体当たりの演技でフォンテーヌの絶望感と儚さを表現している。彼女が歌う「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」からは、生の感情が伝わってきて胸が張り裂けそうになることだろう。2時間38分の映画の中で、アンの登場時間はわずか15分ほど。それでもアカデミー賞助演女優賞を獲得するのは納得の、圧倒的存在感を発揮している。 『インターステラー』(2014) 環境 変化により食料難に陥った人類が滅亡の危機を迎えた地球を救おうと、人類が居住可能な新惑星を探すため、元エンジニアのクーパー( マシュー・マコノヒー )と生物学者のアメリア(アン・ハサウェイ)は未開の地へと旅立つ..
...
.。クリスファー・ノーラン監督と2度目のタッグとなった『インターステラー』は、アンの俳優人生の中でもかなり過酷な撮影だったようだ。トーク番組「 ジミー・キンメル ・ライブ」で、今作の宇宙服は自分史上最悪の着心地だったと語り、さらに「ハリウッド・リポーター」には極寒のアイスランドでの撮影で低体温症になり、命をおとしかけたと告白。しかし、そんな壮絶な撮影現場だったとはまるで感じさせない落ち着いた演技が、今作の見どころでもある。学者という役柄もあり、『レ・ミゼラブル』のような派手な芝居とは異なり、冷静に自分を保とうとする姿が印象的だ。 『マイ・インターン』(2015) あらゆる年代の女性の心理をユーモアというオブラートに包み、赤裸々に描写することで知られる監督&脚本家のナンシー・メイヤーズ作品『マイ・インターン』に挑んだのは33歳のとき。オンライン・ファッションサイトを立ち上げたジュールズ・オーステン(アン・ハサウェイ)と、その会社にインターンとして採用された70歳のベン( ロバート・デ・ニーロ )との変化していく関係を、会社経営というプレッシャーや人間関係、家族との時間などを通して描く。最初はベンをなにもできない年寄りだと見下していたジュールズだが、次第に豊富な人生経験と心のゆとりを持つベンを頼り、尊敬するようになっていく。そんな二人の師弟関係の変化や、父娘のような関係にほっこりさせられる。テンポが良く、『プラダを着た悪魔』のように気楽に観られるのもイイ。 『オーシャンズ8』(2018) サービス精神が旺盛なためか、アンはアカデミー賞を受賞した2012年前後、「言動も演技も大げさでわざとらしい」「褒められたがりで必死さが怖い」など心ない中傷を浴び、ハリウッドの嫌われ者と呼ばれていた時期がある。もちろん本人もそれで深く傷ついていたと後に語っているが、そんな中傷を乗り越えて、完全に吹っ切れたと思わせるのが『オーシャンズ8』だ。天才詐欺師の妹( サンドラ・ブロック )と7人の犯罪のプロたちが、 カルティエ 秘蔵の超高級ダイヤモンドのネックレスを狙うという物語なのだが、アンはこの犯罪集団ではなく、着用したネックレスを狙われるハリウッドの大物俳優ダフネを演じているのだ。大げさで高慢で自信たっぷりのスターという、まさに中傷されていたような役を実に生き生きと演じているのだ。自虐も楽しめるようになった(ように見える)、コミカルだがある意味大人になったアンを観ることができる。 Text: Rieko Shibazaki.
Entertainment
アン・ハサウェイの多彩な演技が光る傑作映画15選
17歳のときにテレビシリーズ「Get Real(原題)」で俳優デビューをしてから、さまざまな役を演じてきたアン・ハサウェイが、11月12日に42歳の誕生日を迎えた。転機となった作品から話題をさらった名作まで、彼女の25年のキャリアをフィルモグラフィーで追いかける。