ハロウィン が迫る10月後半、Google トレンドが毎年恒例のトップ25のトレンドコスチューム、「 Frightgeist (フライトガイスト)」リストを発表した。このランキングは、2023年9月と2024年9月のアメリカ国内におけるGoogleの検索データを比較して作成。「前年と比較して、検索関心が最も大きく増加したコスチューム」を反映している。そして、第25位にランクインしたのが、 ゴジラ だ。これはアメリカにおける、ゴジラの人気を示した結果と言えるだろう。 アジア映画史上初! オスカーの視覚効果賞を受賞 ゴジラと言えば、今年の米国 アカデミー賞 で、邦画として『ゴジラ-1.0』が初めて視覚効果賞を受賞したことが記憶に新しい。同作は、劇場での記録的なヒットを続け、アメリカで公開された実写の日本 映画 として史上最高の興行収入を記録し、さらにアメリカの歴史上3番目に高い興行収入を持つ外国語映画となった。 多くのアメリカのメディアが揃って注目している点は、約1,500万ドルという低予算で制作されながらも、大作ハリウッド映画4作品を押さえてアカデミー視覚効果賞を受賞したことで、非アメリカのスタジオ映画がこの部門で勝利するのは数十年ぶりのことになる。ゴジラシリーズが オスカー にノミネートされたのは、70年に渡る長い歴史の中で、第96回(2024年)が初めてだ。そして脚本・監督を務めた山崎貴が、VFX(視覚効果)も自ら指揮を務めたが、監督がこの部門で受賞するのは非常に珍しく、これまでには1969年にスタンリー・キューブリックが『2001年宇宙の旅』で受賞した一度だけという点にも着目している。 『ゴジラ-1.0』がハリウッド大作を凌駕した理由 なぜ同作はアカデミー賞をはじめ、アメリカで高い評価を得たのだろうか。『ゴジラ-1.
0』がオスカーを勝ち取るには、最も接戦とされ、多くの人々が有力候補と見ていた『ザ・クリエイター』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: Volume 3』、『ミッション: インポッシブル / デッドレコニング PART ONE』、そして『ナポレオン』を打ち負かす必要があった。『ナポレオン』は2億ドルの予算をかけ、巧みなCGIを駆使し、大規模なシーンを演出している。 米国内の報道を見てみよう。『 フォーブス 』は、「どの強豪相手も『ゴジラ-1.0』が作った、ドキュメンタリーのようなリアルさには敵わず、ゴジラのシーンは大迫力で、恐ろしい場面になった。この映画は、批評的にも興行的にも素晴らしい成功を収めたものであり、そのすべては35人の視覚効果アーティストが超人的な努力を注いだ結果だ」と解説。次回作は、最優秀国際映画賞としてのオスカーにノミネートされる可能性もあると示唆した上で、「初めて観たときからこの映画がオスカーを受賞すると予測した。今回の受賞は当然の勝利」と絶賛。「同じクリエイティブチームによる続編が制作され、より高い予算と、さらに大規模なグローバルリリースが実現することを願っている」と、今後に大きな期待を寄せている。 「 NBCニュース 」は、「日系アメリカ人にとって、同作のオスカー受賞は、単なる映画の栄誉以上の意味を持つものだった」と論説。「同作は戦後の日本が直面する破壊と喪失を描いたもので、70年の歴史を持つシリーズで初めて視覚効果賞を受賞。『オッペンハイマー』が注目される中での受賞は、日本の歴史的な痛みを小さくでも、認められたと感じさせた」と述べる。そしてロサンゼルス在住の日系コメディアン、ディラン・アドラーが寄せたコメントを紹介した。「ひどいことをした人々を人間らしく描こうとする映画はたくさんあるけれど、爆撃によって亡くなった日本の市民について話すメディアや映画は非常に少ない。だからこそ、『ゴジラ』という映画が『オッペンハイマー』と同じ年にオスカーを受賞したのがうれしい」 一方で『オッペンハイマー』は、原爆の父であるロバート・オッペンハイマーの視点から物語が語られており、日本の喪失を描いていないことが批判されていると指摘。数十年に渡り、米国のメディアは真珠湾攻撃後のアメリカの英雄主義や悲劇の物語を称賛し、日本系アメリカ人を日本の帝国軍と関連付けてきたとアドラーは述べる。「それは戦争の一側面に過ぎない。本当にアメリカ人、白人の側面だけで、それが唯一示されている視点だ」として、今まで日本人の悲しみについて語ることはほぼタブーのようであったが、同作は「カタルシス」(想像的経験による感情の浄化)のように感じられたという。「これは日本の市民に対する二発の原爆のトラウマから生まれた映画であり、オスカーを受賞したという事実は、私に希望を与えてくれた」というアドラーの見解を取り上げている。 「 ウォール・ストリート・ジャーナル 」紙では、映画の成功の鍵は「ヒューマンドラマ」にあったと解釈。「これまで巨大なスペクタクルに頼ってきた怪獣もののジャンルにも、感情的な要素が存在し得ることを証明した」。物語は第二次世界大戦後の日本、ゼロからの再建を描いており、「-1.0」というタイトルは、国の苦難やすでにトラウマを抱えた登場人物たちに対するゴジラの影響を表している。山崎監督が、長年にわたるゴジラ像がコミカルから英雄的なものまで幅広い中で、「ゴジラがある程度、原爆や戦争のメタファーであったことを観客に思い出してもらいたかった」と、述べたことに言及。 また、視覚的な演出が卓越していたことにも触れた。「ゴジラが東京に現れると、その身長は約160フィート(約49メートル)で、1940年代の高層ビルがまだ建っていない街並みを圧倒し、ニュースのクルーが被害を報道する屋上のシーンが描かれる。山崎監督は、『ゴジラの頭部を人間のキャラクターと同じフレームに収めることで、恐怖感が生まれる』と話す」。この巨大なバージョンは70年前のゴジラを彷彿させ、(当時はゴム製のスーツを着た人間が演じていた)多くの人々の記憶に「刻まれているイメージ」だと、山崎監督が述べたことを紹介。そして同紙は、「破壊をもたらす神のようなクリーチャーのリアルさを、迫力のあるクローズアップや核の息吹の爆発で表現した」と評している。 米国内で高い評価を得た背景には、ハリウッドの大作映画とは異なるアプローチがあり、低予算の中で達成された、高いレベルの視覚効果があった。視覚効果チームは、技術的な制約を創意工夫で乗り越えた。たとえば、コックピットのセットを人力で動かした素材とデジタルで作った素材を組み合わせ、あたかも本当に飛行しているように見えるシーンなど、従来とは異なる手法が取られている。 これが、CGI技術や複雑なテクノロジーに頼る大規模作品との差別化に繋がったといえる。今までは、ハリウッドではゴジラが「モンスター映画」と見られていたが、本作は核戦争のトラウマという深いテーマを描写し、『ゴジラ-1.
0』が、米国内で人気を得たことは、アメリカの日本に対する視点の変化を示しているようだ。アメリカで絶賛された、臨場感漂う大作をぜひ自宅のスクリーンでも鑑賞してほしい。 Text: Azumi Hasegawa READ MORE ・ 『ゴジラ-1.0』製作陣の足もとを彩った“ゴジラシューズ”の製作秘話 ・ 第96回アカデミー賞ハイライト──最高の瞬間から感動のスピーチまで ・ 『オッペンハイマー』が賞レースを席巻する理由 ・ クリストファー・ノーラン監督の代表作7選 ・ 鬼才ヨルゴス・ランティモスが、アートへと昇華させた『哀れなるものたち』の凄さ ・VOGUEエディターおすすめ記事が届く── ニュースレターに登録.
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なぜ『ゴジラ-1.0』は、米国アカデミー賞をはじめ、アメリカで高く評価されたのか
今年3月、山崎貴が監督・脚本・VFXを手がけた『ゴジラ-1.0』が、第96回アカデミー賞で視覚効果賞に輝く快挙を成し遂げた。なぜ並みいるハリウッド大作映画を抑えて受賞に至ったのか、その理由や背景を紐解く。